悪寒 (Dreszcze)

今回はヴォイチェフ・マルチェフスキ (Wojciech Marczewski)監督の『悪寒(Dreszcze 読み方は“ドレシチェ”)』を紹介します。日本では映画マニアにしか知られていない監督かもしれませんが、1960年代後半から映画を撮っており、国内外の映画祭で何度か受賞もしています。また、アンジェイ・ワイダ率いるSzkoła Wajdy(Wajda School)という私立の映画大学の共同創設者でもあります。

1981年に公開された『悪寒』は、ポーランドが置かれていた共産主義体制をリアルに描いています。その政治的主張の強さゆえに、公開の翌月には劇場公開および配給が禁止されてしまった曰く付きの作品です。

舞台は1955年のポーランド。主人公は13歳のトメクという少年です。彼の父親は公安警察によって「不正分子」の嫌疑をかけられ、不当に逮捕されてしまいます。そんな中、トメクはボーイスカウト(注:当時のボーイスカウトはソ連のピオネールのようなもので、品行方正かつ学力のある少年少女しか入団することができなかった)の合宿に参加することに。レーニンの胸像が飾られ、どこもかしこも真っ赤な寮に最初は慄き悪寒を感じるトメクですが、徐々に共産主義思想に染まっていきます。無事に釈放された父親がトメクを寮まで迎えに来る頃には、すっかり共産主義少年へと変貌を遂げ、帰宅を拒み寮に残ることを選びます。

マルチェフスキ監督自身、少年時代は成績が良く、ドルヌィ・シロンスク県の宮殿で行われた合宿に参加したそうです。映画の中で合宿地として出てくる宮殿は、彼が実際にいた場所とは違うものの、当時の雰囲気に近づけるために同県の廃宮殿で撮影されました。この作品は海外でも評価され、1982年のベルリン映画祭で銀熊賞を受賞しています。

ちなみにマルチェフスキ監督は、2001年以降今日に至るまで新作を出していません。最後に制作した映画は『Weiser』というもので、1987年に出版された『Weiser Dawidek』という小説が基になっています。少年時代の不思議な記憶をミステリアスに描いており、以前ナチスの金塊列車で話題になったヴァウブジフ(Wałbrzych)などがロケ地になっています。