「一枚の水彩画」 (Mój Sposób)

 
2010年夏。

ワルシャワの旧市街広場で買った一枚の水彩画。

絵葉書ほどの大きさだが、一目惚れして買った。 たしか、80PLNだったから・・・当時で約2600円である。 夏になると、名もなき、年老いた絵描きたちが鳩の舞う石畳の広場で絵を売っている。 その周りには各カフェのオープンテラスが並び、「人魚の像」の近くには、赤や黄色の風船がついたアコーデオンを弾く小太りの男がいて、そのまわりに子供たちが群がっている。 あのにぎやかな光景が僕は好きだ。と同時に、太宰治の短編を思い出す。「絵描き」としての長い人生には、様々な試練や紆余曲折があっただろうし、もし何十年もただひたすらに絵を描き続けてきたのだとしたら、立派だ。 芸術とは、本来そういうものではないかと思う。 太宰の言葉を借りれば、

『歯がぼろぼろに欠け、背中は曲がり、ぜんそくに苦しみながらも小暗い路地で一生懸命バイオリンを奏している、かの見るかげもない老爺の辻音楽師を、諸君は笑うことができるであろうか。』

である。

そんなふうに、少し感傷的になって買った一枚。
この水彩画を眺めていると、僕はあの時の年老いた絵描きの優しい目を思い出す。